ヴァッレダオスタ(アオスタ谷)州の州都であるアオスタは、アルプス越えの起点として、先史時代から栄えた都市である。その名残として、市内にはローマ帝国時代のものをはじめ、数多くの遺跡が残されている。
州都ではあるが、人口は4万人足らずで、州町あるいは州村といったほうが似合うこぢんまりした町だ。町の中央には、市庁舎のあるシャノー広場があり、そこから四方に道が伸びている。
そのうちで、アウグスタ門から東に向かうポルタ・プレトリア通り、それに続くサンタンセルモ通りが目抜き通りといった感じで、飲食店や土産物屋が並んでいる。
そんな市の中心部からも、万年雪をかぶった山々が見渡せて、夏でもすがすがしい気分になる。標高も高いので、夏でもさぞ涼しいに違いないと思ったら、2014年の2度目の訪問時には、9月半ばというのに30度近い暑さにびっくり。
タクシーの運転手によれば、「いやあ、涼しいときもあったけど、ここ2、3日は暑くて」とのことだった。
ヴァッレ・ダオスタ州は、イタリア国内の特別自治州という位置づけで、イタリア語のほかにフランス語が公用語になっている。ただ、看板で見る単語は、標準フランス語とは違った方言で記されていることもあって、非常に興味深い。
フランス語を話す人たちというと、どこかよそものにそっけないという先入観があったのだが、この州の人たちは、観光客にとてもやさしい。むしろ、何かと気が利いて、親切な人が多かったという印象があった。
しかも、少なくとも私が歩き回った限りでは、夜でも町にあまり緊張感がない。イタリア国内でも豊かな地域だということもあるのだろう。事実、治安がよいとのことである。
アオスタ市内の歴史的な観光地というと、ローマ遺跡やアウグストゥス門が有名だが、サントルソ(聖オルソ)教会とその修道院は必見である。
とくに修道院は、建物や回廊のデザインが特徴あって目を引く。
狭い路地の奥にあって、知らないでいると見逃してしまいそうな場所にある。ガイドブックで見ていっても、何度も行きつ戻りつして、ようやく入口を見つけることができた。
教会の外側は、下の写真のように、アーチの下のもたっとした大根足のような装飾がかわいい。
また、修道院の回廊は、イタリアのどこに行っても見られるが、ここのものは、おそらく天井が低くてアーチの間隔が狭いためか、薄暗いのが古さを感じさせた。
もう一つ、この町で印象に残ったのは、とあるバス停の名前。ホテルから中心部に向かう路線バスに乗っていたら、車内放送で突然「さよなら」という声が聞こえてきた。
何かの間違いかと思って電光掲示板を見たら、「Via St. Martin Sayonara」という文字が流れていった。まさに、「サンマルタン通りサヨナラ」である。
バスはサンマルタン通りをずっと走っていたので、「サンマルタン通り○○」という名前の停留所が続いており、この
「サヨナラ」はどうやら交差点の名前らしい。はたして、何に由来しているのだろうか。ネットで調べてみると、
かつてこの近くに「ホテル・サヨナラ」があったらしいことまではわかったが、それが交差点の名前になったのか、それとも地名が先でホテルの名前が決められたのかは不明である。