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イタリア町めぐり

アンフィテアトロ広場 1981.10 地図


 トスカーナの旅というと、フィレンツェをベースにして市内めぐりをしつつ、1日はシエナとサンジミニャーノ、もう1日は斜塔を見にピーザ(「ピサ」といっても現地では通じない)に行くというのが相場である。

  でも、ピーザ(ピサ)まで行ったら、ぜひ立ち寄ってほしいのがルッカの町である。 城壁に囲まれ、こぢんまりとした旧市街に点在する教会は、どれも個性豊か。また、狭い路地を歩いていると、突然、目の前に開ける広場……まさに、イタリアの小都市のすべてがここに凝縮されているといっても過言ではない。
 
 そもそも、ルッカほどの規模の町で、周囲の城壁がきっちりと残されているのも珍しいだろう。城壁を取り囲む堀は美しい芝生になっており、城壁の上の道をのんびりと歩きながら、城内の古い町並みを眺めたり、城外の緑に心を休めたりするのもまたよい。


サン・フレディアーノ教会
▲モザイクが美しいサン・フレディアーノ教会。建てられたのは12世紀だが、その後、13世紀に手が加えられたという。
  1981.10
▼12世紀に建てられたサンタ・マリア・フォリスポルタム教会 。ちょっとやぼったいところが魅力。
  1981.10サンタ・マリア・フォリスポルタム教会


 もう一つ、ルッカ名物として、楕円形をした不思議な広場がある。トップにある写真がそれだ。その名もアンフィテアトロ広場----つまり円形闘技場広場というのだが、1981年に初めてルッカを訪れたとき、何も知らずにその広場までやってきて驚いた。

  なにしろ周囲の建物が、絶妙なカーブを描いて広場の楕円形を縁取っているのだ。名前もそうだが、形や大きさからしても、ローマ時代の円形闘技場の跡が、そのまま住居化したことは見当がついた。
「へえー、闘技場にそのまま住みついて家にしちゃたのかあ。さすがイタリアだ」

 わかりやすくいえば、ローマのコロッセオの観客席が、そのまま住宅になったようなものである。純情だった私は、純粋に驚いた。インターネットもなく、たいしたガイドプックもなかったころである。事前の情報がないぶんだけ、実物を見たときの感動は強かった。
  ちなみに、アンフィテアトロ広場は、メルカート(市場)広場とも呼ばれているらしい。

ルッカの市内 ▲以前は陰影が印象深い町だった。   1981.10 ▼ピサ様式のファサードを持つサン・ミケーレ・イン・フォロ教会。1070年に建築が始まり、14世紀まで続けられたという。
*写真にポインタを合わせると、てっぺんの聖ミケーレ(ミカエル)像を拡大します。  1996.6
ドゥオーモの正面

 さて、その楕円形の広場の謎が氷解したのは、2007年なってからのこと。
「古代ローマ円形闘技場遺構の再生」という副題の付いた『ルッカ 一八三八年』(黒田泰介著・アセテート)という本を、たまたま書店で手に入れた。それによると、19世紀の再開発によって、円形闘技場遺構が住居化されたのだそうだ。
 この本の巻末に、ルッカの円形闘技場街区のペーパークラフトが付いているのが泣かせる!! 

 いまでは、この広場も観光客にかなり知られるようになった。2度目に訪ねた1996年には、殺風景だった広場は花で満たされ、何かのイベントがあったらしく、人で賑わっていた。
 1981年には建物の石にこびりついたススで、町全体が暗く見えたのだが、1996年には教会も一般の住宅も明るく磨き上げられ、ずいぶん明るい印象に変わっていた。

サン・ミケーレ広場

夕暮れのサン・ミケーレ広場。トスカーナののどかな町である。

1996.6



 さて、その2度目にルッカ行きというのは、両親を連れてのイタリア旅行なのであるが、町なかを3人でぶらぶら歩いていると、サン・フレディアーノ広場に、何台ものクラシックカーが集合しているのが目に入った。

  それだけでも十分に驚きなのだが、さらに驚くのは、それぞれの車を取り囲んで地元の人たちが、ああだこうだと大騒ぎしている情景である。おそらくなんの面識もない者どうしだろうが、楽しそうな顔をしてクラシックカーを取り囲み、その運転手(大半は、かなり年のいったおじさん)をつかまえて、大声で質問をぶつけているようなのだ。
 イタリア人は車が好きだということをしみじみと感じた光景である。


城壁から旧市街を望む。城壁の外側にはみずみずしい緑が広がっている。

1981.10

城壁から旧市街を望む


 なかでも一番の人気だったのが、下の写真でFIAT(フィアット)と書かれたクルマの持ち主。運転手のおじさんは70歳近くだろうか、まるで戦時中の戦闘機乗りがかぶっていたような布の帽子をかぶり、得意気な様子で質問に答えたり、車に水を入れたりしていた。

 やがて、広場から次々に車が出発していくのだが、そのおじさんの車のエンジンがなかなかかからない。しまいに、周囲にいた10人近い男性が、車を押しはじめた。押したり、エンジンをかけたりと何度も繰り返しているうに、ようやく車は排気ガスの臭いとボコボコいう音を残して、のろのろと広場を出ていった。
 広場に残った人たちの間に、大歓声が上がったことは言うまでもない。
「おいおい、あれでフィレンツェまで行けるのかよ」
 車を押していた40過ぎの男性が、やはり車を押していた別の男性に、笑いながら話しかけていた。そんな様子を見て、大喜びのわが両親であった。


●所在地
トスカーナ州ルッカ県(県都)
●公共交通での行き方
・フィレンツェSMN(サンタ・マリア・ノヴェッラ)駅からヴィアレッジョ行き急行列車で所要約1時間20分。
・ピーザ(ピサ)中央駅からルッカ行きで所要約30分。

●見どころ
・見事に残った城壁とそれに囲まれた旧市街のたたずまい。
・円形劇場のあとが楕円形に広場として残るアンフィテアトロ(メルカート)広場。
・アーチが美しいピサ様式の教会の数々。

●老婆心ながら
フィレンツェから鉄道でルッカとピーザ(ピサ)の両都市を訪ねるときは、片道をピーザ行き直通にして、片道はルッカ乗り換えにすると効率的。
サン・フレディアーノ広場のクラシックカー クラシックカーに占拠されたサン・フレディアーノ広場。
  1996.6
2008年4月作成

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