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イタリア町めぐり

モンドヴィ遠景 2009.6月 地図


 地図を見ただけで、「これはおもしろそうな町だ」と直感することがある。その1つがピエモンテ州のこの町、モンドヴィだった。
  川に沿ってブレーオ(BREO)と呼ばれる町が広がる一方で、その背後の山の上にピアッツァ(PIAZZA)と呼ばれる町がある。そして、2つの町は道路とケーブルカーで結ばれているのだ。ピエモンテ州南部の町というと、あまり日本では知られていないが、これを見ただけで「ぜひ行かなくては」と思ったのであった。

 2009年夏の旅の最終日は、トリーノからバスでミラノ・マルペンサ空港に向かうことにしていた。その前日の夜はトリーノに泊まるつもりだったが、大都市ならばいつでも行けると思いなおして、その近辺の小さな町を探していたのである。


エッレロ川を渡る橋から、モンドヴィの下の町・ブレーオを見る。
中央の黄色い建物の右後ろに、わずかにケーブルカーの線路が見える。

2009.6

下の町(ブレオ)に架かる橋


 町はずれにあるモンドヴィ駅周辺は、なんの変哲もない新市街だったが、そこからガラガラと荷物をひいて歩いていくうちに、目の前に素晴らしい光景が飛び込んできた。山の上の町、ピアッツァ(イタリア語で「広場」の意味)の偉容である。

  もっとも、写真に撮ろうと思っても、手前の建物がじゃまになってうまく写せない。どこから撮ればいいかと迷っていたら、なんとホテルの部屋のベランダから、トップの写真のような光景が目に入ったのであった。

 ホテルのある下の町・ブレーオも、歩いてみると思った以上に味わい深い。小さな広場に面した建物には、さまざまな壁画が描かれており、古い教会の前のテラスでは地元の人たちが食事をしていた。また、イタリアでよく見られるように、中心部の道路脇で売られている古本を眺めるのも楽しかった。
  とはいえ、町なかには不思議と観光客の姿がなく、1泊2日の滞在で目にした観光客らしき人間は、中年のイタリア人夫婦1組だけだった。


ケーブルカー

モンドヴィの下の町・ブレーオと上の町・ビアッツァを結ぶケーブルカー。2006年に復活した路線である。

2009.6



  困ったのはレストランである。さきほどのテラスは満員だし、バカンスシーズンに備えているためか、日曜日だったためか、数少ないレストランもピッツェリーアも休業。ブレーオの町じゅうをまわって、ようやく1軒のうまそうなトラットリーアを見つけた。
 ガタンと扉を開けると、明るい店内にいた客がいっせいにこちらを見る。20~30年前のイタリア旅行ではよく経験したものだが、久しぶりである。こんな町に来て、こんな店に入る東洋人はかなり珍しいに違いない。とはいえ、それも一瞬のことで、みな自分たちの食事に集中していったようだ。
 珍しかったのは、おひとり様の客が私以外にも2人いたこと。中年の男性客で、たまたま仕事でこの町に寄ったような感じではあったが、中部や南部イタリアではあまり見かけない光景であった。

 メニューを注文するときは、このあたりの体のデカいピエモンテ人と同じ量を食べていたら胃がもたないと察して、パスタを省略。地元の食材を使った前菜の盛り合わせとステーキを頼んだ。そうしたら、前菜の盛り合わせにも分厚いローストビーフがついてきて驚いた。


上の町・ピアッツァの中心部に位置するマッジョーレ広場。広場自体が急な坂になっているのがわかる。正面右の建物はミッシオーネ教会。

2009.6

マッジョーレ広場とミッシオーネ教会

マッジョーレ広場とカッテドラーレ

上の写真の反対側。外壁に絵が描かれている建物が多かった。奥にちらりと見えるのが、この町最大の教会であるカッテドラーレ。

2009.6



 翌日の午前中は、山の上の町ピアッツァに向かった。標高差は150メートルほど。ケーブルカーに乗って約3分である。この路線は廃止後に長い間、放置されていたようだが、2006年にリニューアル開業したという。待合室には昔のケーブルカーの写真や、リニューアル作業の風景の写真などが展示されていた。
「馬車をイメージしてつくったんだよ」
  ケーブルカーの乗務員である30代と思しき背の高い男性は言った。このあたりの人たちは、典型的なイタリア人とは違って、いま一つ愛想がないように見える。体もデカくて、南部のイタリアとはとても同じ国とは思えないほどだ。とはいえ、とっつきにくいけど、話してみると意外に親切だったりするのであった。

 馬車をイメージしたというケーブルカーのボディーは、ステンレス製らしくピッカピカ。全面にガラスを大胆に使ったデザインの車両が、古めかしい町をバックに走るのはおもしろかった。もっとも、ガラス張りのおかげで、乗車中は直射日光が当たって暑かったけど。


ベルベデーレ広場からの眺め▲上の町・ピアッツァの最高点にあるベルベデーレ広場からは、おだやかなピエモンテの風景を望むことができる。
2009.6

▼モンドヴィのシンボル。時計塔。
  2009.6モンドヴィの時計塔


「きょうは月曜日だから、運行は午後1時半までだよ」
  降りるときに乗務員が教えてくれた。
  運行は約10分おきなのだが、ここの運転時間は不思議である。月曜から土曜日は朝7時30分が始発で、休日は10時20分が始発というのはわかる。
 そして、最終便が土曜日は0時10分で、ほかの曜日はほぼ19時45分というのもまあわかる。だが、月曜日だけなぜ13時35分でおしまいなのか。月曜日の午前中が休みという店舗はイタリアでよく見るが、月曜日の午前中は運行して、午後は運休というのは変である。

 月曜日の午前中は、学校に通う子どもたちのために運行は必要なのだろう。その代わり、午後は機器の点検でもしているのだろうか。あるいは、単に客が少なそうな日に、乗務員たちが休みたいのかもしれない。
 まあ、車道はあるから車を持っていれば問題ないだろうし、普通の健康な人ならば歩いて登り降りできない坂道ではない。下の町と上の町をつなぐミニバスもたまに走っていた。


モンドヴィの細い坂道

あらゆる道が坂になっている上の町・ピアッツァ。マッジョーレ広場からは何本もの道が下っている。この近くに17世紀のユダヤ教のシナゴーク跡があるはずなのだが、見つからなかった。

1996.6



 ケーブルカーの山頂駅を出て驚いた。そこには、見事な建造物が取り囲む広場があった。いや、見事な建造物のある広場はイタリアでは珍しくないのだが、このマッジョーレ広場は三角形をベースにした不思議な多角形で、しかも上の何枚かの写真でおわかりのように、かなりの坂になっているのだ。
  シエナのカンポ広場も不思議な形で坂になっているのだが、あれよりもずっと狭いのに坂がきつい。どうにも落ち着かない気分なのだが、個性的といえば実に個性的な広場である。

  中心の広場が坂であるくらいだから、町なかの道はすべて坂。山の上にあるのだから当然だろう。町の頂上は広場のすぐそばにあった。見事な内装の教会カッテドラーレの脇を抜けると、町の周囲が一望できるベルベデーレ庭園があり、そこには1300年代に建てられたという「市の塔」が建っている。

 ピエモンテのおだやかな風景が見わたせる広場には、涼しい風が吹き抜けていた。旅の最後の日を過ごすのに、ちょうどいい静かな町であった。


●所在地
ピエモンテ州クーネオ県
●公共交通での行き方
・トリーノからイタリア鉄道で1時間10分。日中は1時間おき。
・ジェノバからイタリア鉄道サヴォーナ乗り換えで2時間。
●見どころ
・川沿いの静かな田舎町ブレオと、山の上に広がる町ピアッツァの対照。
・ 狭い町に数多くある教会。

●老婆心ながら
モンドヴィの地名は、最後にアクセントがある。つづりも、最後の「i」にアクセント記号が付いている。
下の町の商店街 日曜夜の下の町・ブレオの商店街は、ほとんどの店が閉まってひっそりとしていた。 2009.6
2009年9月作成
2010年11月更新(時計塔の写真を追加)

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