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イタリア町めぐり

町の遠景2005年12月 地図


 モラーノ・カラブロ(モラーノ・カーラブロ)の名前をはじめて目にしたのは、1990年のこと。イタリアの旅行雑誌『Bell'Italia』の誌上である。
  この月刊誌には、毎回イタリアの町が数か所、美しい写真とともに紹介されており、どの町にも行きたくなってしまう。そのなかでも、ひと目見て釘付けになったのが、モラーノ・カラブロだったというわけだ。
  もっとも、場所がイタリア南部のカラブリア(カラーブリア)州。見るからに不便そうな場所だったため、なかなか訪れる機会がないまま14年もたってしまった。

  しかし、2004年10月、とうとう思いのかなうときがやってきた。それは、ローマから夜行バスで5時間もかかり、夜行というのに一般と同じ窮屈な4列の座席。しかも、冷房のために体調を崩すという代償を払っても、「来てよかった」と思わせる町であった。


山頂からは国立公園となっているポッリーノ(Pollino)山脈が眺められる。
左上の建物は、16世紀にナポリ人によって、ナポリのヌオーヴォ城(Castel Nuovo)をモデルに再建(修復)されたノルマンの城砦。

2004.10

山の頂上近く


 モラーノ・カラブロの「カラブロ」は、カラブリア(州)の形容詞の古い語(現代語は「カラブレーゼ」)。この周辺では、「モラーノ」だけで通用していた。

  この町の魅力といえば、円錐形の山の上に、びっしりと家が建ち並んだ旧市街。丘上都市にもいろいろなタイプがあるが、山頂からふもとまで、これほど家が密集している町はほとんどないだろう。しかも、山の形が実に美しい円錐形をしている。
  さらに、旧市街の家を縫うように、路地がつづき、路地と階段がしばしば一体化しているという、満点に近い丘上都市なのである。
  山の頂上近くには廃屋があるものの、ほとんどの家に人が住んでいるところもいい。そして、ふもとから見上げると、山頂にはノルマンの城砦と聖ピエトロ・パオロ教会が張り合うようにして建っているのだ。
  往々にして、あまりに期待が大きいと、実物を見てがっかりすることが多いのだが、ここはまさに期待どおりの町だった。

頂上近くの小道▲山頂近くの路地の向こうに、美しい山並みが顔をのぞかせる。
  2004.10
▼家の中を公道が突っ切っている。看板には、サルバトーレ門(Porta Salvatore)と書かれていた。
  2004.10
建物の下を通る道

 イタリア南部は、アラブ人やノルマン人の支配を受けた地域が多いが、ここもその一つ。11世紀にやってきたアラブの軍勢は撃退したものの、12世紀にノルマン人に支配されることとなった。のちに、スペインのアラゴン家の支配に入り、19世紀までそれが続く。
  イタリア統一後の19世紀後半には、アメリカへの移民が増大して、一時は人口が激減したものの、いまではほぼ回復したとのこと。

  バス停で会った50代後半とおぼしきおじさんは、ふだんはドイツで暮らしており、久しぶりに里帰りしていたのだという。
  「町は変わった?」と聞くと、「いや、全然変わらないね。外観は」と笑う。「でも、山に住んでいるのは年寄りばかりになったよ。若い人は、みんなふもとに降りてしまった……。そうそう、30年か40年前はロバがいたっけ。車の通る道がなかったからね」


マッダレーナ教会

マッダレーナ教会(La collegiata della Maddalena)は旧市街の中央広場に面しており、丸屋根はマジョルカ焼のタイルで覆われている。

2004.10



 このときの町歩きでは、山から降りてきたところで、手に持っていた綿麻混紡の安物のジャケットを落としてしまったことに気づいた。あわてて旧市街に戻って探そうとしたのだが、狭い路地が迷路のようになっていて、どこをどう来たのかわからない。
  下を見ながらうろうろと歩き、いいかげんあきらめかけたところ、「ヒュー」という声とともに、正面の小さな家から、80近いと思われる老人が出てきた。そして、斜め上を指さして言った。
「あんたのか?」
  家の前の物干し台のような場所に、見慣れた茶色の安っぽい服がかかっていた。
  あとで探しにくることを見込んで、目立つところに置いてくれたのだ。もちろん、重ねてお礼の言葉を述べたことは言うまでもない。おじいさんは、礼にはおよばぬとばかりに、くるりと背を向け、上げた右腕の先で手をひらひらと上下させながら、家の中に入っていった。


ふもとから山頂を見上げる。山頂の左側は、聖ピエトロ・パオロ教会(Santissima Pietro e Paolo)。右がノルマンの城砦。

2004.10

山の頂上近く


  そうそう、もう一つ、このあたりの魅力は、ポッリーノ山脈から流れてくる水のうまさと、山の幸に恵まれていること。町なかにある水飲み場で、安心して水が飲めるというのはうれしい。そして、「こんなところに」と驚くほど立派なレストランが、ところどころに建っているのだ。
「食材が新鮮で最高だよ」と、さっきのドイツ帰りのおじさんが言っていたっけ。


●所在地
カラブリア州コセンツァ県
●公共交通での行き方
・カストロヴィッラリから、バスが30分~2時間に1本ほど。所要約15分。
・サープリから、バスで約1時間半。本数は少ない。
・ ローマ・ティブルティーナ駅前のバスターミナルから長距離バス(SIMET社)が1日2往復(うち1往復は夜行)。所要約5時間。

●見どころ
・円錐型の山にびっしりと家が建ち並んだ旧市街。
・マッダレーナ教会の美しい丸屋根。

●老婆心ながら
バスは、旧市街の途中まで登るものと、ふもとの道路を通るだけのものがあるので注意。
子供たち 写真を撮っていたら子供たちが集まってきた。こんな町でも、子供たちはピカチューを知っていた。でも、ブルース・リーは日本人だと思っていたらしいけど。
  2004.10
2004年11月作成
2006年1月一部修正

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