ヴィピテーノの中心部2007/06 地図

アルプスの南北を結ぶ街道は何本かあるが、そのなかでも古代から重要な位置を占めていたのが、ブレンネーロ峠を経由して、ボルツァーノを通り、ロミオとジュリエットで有名なヴェローナへ至る道である。ヴィピテーノは、ブレンネーロ峠から南へ10kmあまりに位置する宿場町として栄え、18世紀後半には、ドイツからイタリアに向かったモーツァルトやゲーテもここを通っている。
 もっとも、両者ともに通過しただけで宿泊はせず、ゲーテの『イタリア紀行』では、この町についてほんのひと言だけ触れているにとどまっている。
 また、第二次世界大戦直後には、何人かのナチスの高官が南米に逃れる途中、偽造パスポートを入手するまでの間、この町に潜伏していたというエピソードもあるらしい。



ヴィピテーノ駅前 広々としたヴィピテーノの駅前。右側が駅舎。ここから町の中心部までは徒歩で10分ほど。
2007/06


15世紀のはじめごろからは、近くでとれる銀鉱石の選鉱所としても栄えたらしい。世界史でも有名なアウグスブルクのフッガー家をはじめ、さまざまな会社がこの町に本社を置いたという。現在も残る古い邸宅のいくつかは、この当時に建てられた家をもとにして、改築を重ねていたと、町のホームページに記されていた。
 人口6000人くらいの小さな町であるが(とはいえ、ここ100年間で着実に人口は増加しているようだ)、地理的にも歴史的にも重要な場所だったということがわかる。



チッタ・ヌオーヴァ通り▲ここが町の目抜き通り。時計塔がちらりと見える。時計塔の南側の道は、チッタ・ヌオーヴァ(新市街)通りと呼ばれる。
2007/06


そんな町を訪れたのは、2007年の6月。ただでさえ昼が一番長い時期であり、しかも緯度が高いから、午後6時を過ぎても太陽は中天高くにあった。
 ボルツァーノ自治県は、ドイツ語を母語とする人が人口の7割ほどを占め、イタリア語とともにドイツ語が公用語となっている。とはいえ、地名はイタリア語名とドイツ語名は似通っているところが多く、県都はイタリア語でボルツァーノでドイツ語はボーツェン、有名な保養地メラーノは、ドイツ語ではメランである。
 ところがである。この町はまったく違うのだ。イタリア語ではヴィピテーノだが、ドイツ語ではシュテルツィングなのであった。



▼町の中心にそびえる高さ46mの時計塔。ドイツ語でZwölferturmと呼ばれている。 2007/06 ヴィピテーノのシンボル・時計塔

時計塔とチッタ・ヴェッキア通り ▲時計塔の北側は道幅が狭くなり、名前もチッタ・ヴェッキア(旧市街)通りと変わる。 2007/06


町の中心部は本当に小さく、せいぜい500m四方といったところ。その中心にあるのが、この町のシンボルである時計塔(Zwölferturm/Torre delle dodici)である。イタリア語の名前からすると、「12時の塔」なのだろうが、そこにどんな謂われがあるのかはわからなかった。いずれにしても、この町を紹介する写真には欠かせない建造物……というか、めぼしいものはこれしかないともいえる。
 花崗岩でできた高さ46mの塔は15世紀後半に建てられたが、1867年の火事によって先端部が焼失し、現在のような形に補修されたそうだ。
 そして、この時計塔の下を、この町随一の通りが貫く。いわば、ヴィピテーノ・シャンゼリゼである。そして、イタリア語でもドイツ語でも、この塔より南を「新市街通り」、北を「旧市街通り」と呼んでいる。



チッタ・ヴェッキア通りとサントスピリト教会 ▲時計塔のすぐ北側にあるサント・スピリト(聖霊)教会とその手前のチッタ広場。
2007/06


私が訪れたのが休日だったからか、新市街通りは観光客でごったがえしていた。外見からするに、大半の人はオーストリアから国境を越えてやってきたのではないだろうか。暑くて休憩しようにも、カフェテラスもバールも満員である。
 イタリア国内を旅行して、店がイタリア人で満員なのには慣れているが、ドイツ系の人で満員なのは慣れていなかったのでやや面食らった。相手は体格もよいし、イタリア語も通じそうにないので、無理して分け入っていこうという度胸がなかった。



静かな住宅街▲中心部を少し外れると静かな住宅街になる。正面の建物は、ヨークルストゥルン(Jöchlsthurn)邸。
2007/06


そんなわけで、この町ではあまりゆっくりとできなかったが、ちょっとイタリア離れしたかわいい町としておすすめである。人込みに疲れたら、中心部を50m離れるだけで人通りの少ない静かな道になる。
 そんな静かな街角で、50代くらいの上品そうなおばさんが3人、道端に腰かけて楽しそうに会話をしていた。さて、何語で話しているのかなと聞き耳を立てたら、きれいな標準イタリア語であった。



●所在地
トレンティーノ=アルト・アディジェ(南チロル)州ボルツァーノ県
●公共交通での行き方
・ボルツァーノからイタリア鉄道で約1時間20分。1時間に1本ほど。
●見どころ
・町の中央部にそびえる、15世紀に建てられた高さ約46mの時計塔。
・旧市街に建ち並ぶ15~16世紀の商家や邸宅。
●老婆心ながら
・オーストリア国境まで、近いところで約10km。南チロル(ボルツァーノ自治県)は、第一次大戦後にイタリア領に編入された。

2カ国語表記の駅名 2007/06

ヴィピテーノ写真ギャラリー

ヴィピテーノ駅 中心部への入口 中心部の入口にあたるウンタートル広場
静かな裏通り 聖マルゲリータ教会 駅と市街地の間を流れるイサルコ川
ヨークルストゥルン邸 チッタ・ヌオーヴァ通り ヴィピテーノ駅

2020年9月公開


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