六本木といえば、今やよくも悪くも賑やかで雑然とした繁華街になったが、1980年代ころまでは、ちょっとおしゃれで気取った町だった。そんな町の片隅にあったのが、麻布・北日ヶ窪町である。今の六本木六丁目の大半にあたる町だ。2003年4月に、森ビルの手によって「六本木ヒルズ」という巨大なビル群が建った場所でもある。
1983年にここを訪ねたときは、六本木の中心部のほんの目と鼻の先に、こんな静かで昔ながらの住宅街が存在するのは奇跡と感じられた。当時のテレビ朝日本社のすぐ南にあるのだが、開発から取り残されたのだろう。わくわくドキドキしながら歩いたものだった。
東京のあちこちにある「窪町」と同じく、周囲よりも低くなっているので、旧町名には「窪」という字がついたのだろう。そこが、なんと町ごと六本木ヒルズという巨大な建築物群に姿を変えたのである。「窪」は「ヒル(丘)」になってしまったのだ。
もし六本木ヒルズを訪ねる機会があったなら、その足の下にはこんな町があって、人びとが静かに暮らしていたということを思い出してほしい。
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