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世界の音楽を求めて


fairuzFairuz
ファイルーズ
「アラブの歌姫」
Shat iskandariaのジャケット ファイルーズベスト盤のジャケット



 ファイルーズとはアラビア語で「トルコ石」のこと。英語ではFAIRUZ、フランス語ではFAIROUZと表記することが多い。日本語でも正則アラビア語(フスハー)読みのファイルーズのほかに、口語(方言、俗語)読みのフェイルーズと表記することもあるようだ。
 その歌声を初めて聴いたのは、1985年ころのFM放送だった。少し鼻にかかった艶やかな声で、アラブ音楽独特の小節をきかせたメロディーを歌っていた。その歌声もメロディーも、一度聴いたら忘れられない。
 ファイルーズ自身はレバノン出身のキリスト教徒だが、イスラム教徒がほとんどのアラブ圏にあって大歌手として広く敬愛されている。
 エジプトを旅行したときに、現地の人とアラブの歌の話になり、ファイルーズが好きだと行ったら大喜びされた。もっとも、カイロの都会っ子にとっては少々古い歌なんではないかとも思う。

 ところで、アラブ音楽の中心はカイロであり、音楽で成功しようとするならば、アラビア語のカイロ方言がうまく使えなければならないという。その点、ファイルーズは文句がないそうだ。
「カイロ方言を使ったラブソングも歌えるし、レバノンの田舎くさい曲も味わい深く歌える。フスハー(正則アラビア語)で書かれた古典的な歌詞の歌も歌える。だから人気があるんだよ」
 アラビア語教師でもあり通訳でもあるカイロ生まれのDr.ムハンマド・ザキ氏はこう語っていた。

 「アラブの歌姫」といえば、一時代前ではウンム・クルスームという超大物女性歌手がいた。民族音楽研究家の故小泉文夫氏によれば、1960年代、大音楽家ムハンマド・アブドゥル・ワッハーブがつくった曲をウンム・クルスームがラジオで歌うと、表通りの人通りが途絶えたという「君の名は」のような伝説の歌手である。
 でも、ウンム・クルスームの歌はメロディーが単調で、歌詞がよくわからない外国人にはちょっとつらい。その点、ファイルーズの歌には西洋音楽の要素がほどよくミックスされて、聞きやすくなっている。
 1980年ころまでは、彼女の歌は、ラハーバーニー兄弟によるものが大半であった。兄弟のうち、アーシー・ラハーバーニーは彼女の夫であるが、その後二人は離婚している。息子のジヤード・ラハーバーニーがつくった曲も多い。
「確かにラハーバーニー兄弟がつくった曲はよかったけどね。でも、あの兄弟は金にうるさいんだよ。だから、ファイルーズは離婚してよかったんじゃないの」とは、さきほどのザキ氏である。
 ちなみに、ファイルーズの歌のなかで私がもっとも好きなのは「Shat Iskandaria (アレキサンドリアの浜辺)」なのだが、これはザキ氏のお気に入りの曲でもある。アレキサンドリアの浜辺の光景と「私」の恋心が二重写しになるラブソングで歌詞が凝っているし、メロディーも一度聴いたら忘れない。

 ところで、ファイルーズのCDを買うときには注意が必要である。ファイルーズの歌は、時代やアルバムの種類によって、歌の雰囲気がまるで異なるからである。何も知らずに買ってしまうと、退屈でたまらなかったとか、あまりにも西洋風でつまらなかったという感想が出てくるかもしれない。最初に聴くとしたら、下に示した「駄菓子のお勧め」の2枚がいいと思う。

andaloussiyatジャケット

ANDALOUSSIYAT [1966年]
[アンダルシヤ]
 ファイルーズはミュージカルにも多数出演しているのだが、これもそのうちの1つ。
 アラビア語で「アル・アンダルサ」といえばスペインのこと。「アンダルシア」は、その形容詞……とそこまでは知っているのだが……。アラブ人がイベリア半島にいたころの話ではないかと想像している。日本語、英語、フランス語はもちろん、アラビア語でも解説がまったくないので、わからない。
 地味な曲が多いが、じっくりと聴き込むとなかなか味のある曲が多い。全11曲で、6曲目を除くと、作曲はすべてラハーバーニー兄弟。典型的なアラブの古い歌謡曲風の歌が多いが、なかにはピアノをバックにしたモダンな曲もある。数曲は、古い詩が使われている……らしい。
 個人的には、5曲目の「La tasaaluni」が軽やかで、リズミカルなのがいい。

olympiaジャケット

AT THE OLYMPIA [1979年?]
[オランピア劇場のファイルーズ]
 ファイルーズが、1979年5月3・4日にパリのオランピア劇場で歌ったときのライブで、2枚組。やはり、ラハーバーニー兄弟の曲が大半で、ミュージカル仕立てになっているようだ。
 ジャケットがあまりにもセンスがないのだが、こんな衣装で歌ったのだろう。珍しくブックレット付きだが、LP用のものを縮小したらしく、小さくてとても読めない。しかもフランス語である。
 一般にはあまりお勧めできないが、マニアの方にはどうぞ。
 2枚目の12曲目には、アンコール曲として、名曲のほまれが高い(らしい)「Zourouni」(旅人)が収められている。

wahdonジャケット WAHDON [1979年]
[ワハドン] ** 駄菓子のオススメ **
 左のジャケットは、2001年に購入した新装版。アラビア語、英語、フランス語で歌詞カードが付いているというすぐれもの。
 曲は、息子であるジヤード・ラハーバーニーが担当している。1曲目の「Habbaytak ta nseet al nawm」(あなたが好きで夜も眠れない)は、中央アジアの香りがする小節の利いた素敵な曲。 1985年に私がFMで初めてファイルーズを聴いたのは、この曲だった。最初の1音から異様な盛り上がりをみせ、最後まで息をつかせず引っぱってくれる。リアルプレイヤーがあれば、ここで聴ける。
 2曲目の「Baatilak」(あなたに魂を捧げます)は、正統アラブ調の名曲。わが友人ザキ氏のお気に入りの曲でもある。
 この2曲と、2つ下の「Shat Iskandaria」を含めた3曲を聴いて、どれも気に入らないようであれば、あなたはアラブのポップスに縁がないと思ったほうがいい。
fairuz bestジャケット the very best of FAIRUZ [1987年]
[ファイルーズ・ベスト]
 ファイルーズのベスト盤と称するCDやLPは多数出ているのが、これは「very best」というもの。アラブで大流行(したらしい)「Habbeytak Bessayf」 (夏の日に恋して)が含まれている。もっとも、かなり西洋風の曲なので、アラブ調を期待すると裏切られてしまう。
 この曲に限らず、どれも西洋のポップスの影響を強く受けていることが感じられ、1980年代のアラブのポピュラー音楽の様子を知るにはいい資料になるかもしれない。
shat iskandariaジャケット

SHAT ISKANDARIA [1987(88?)年]
[シャティスカンダリーヤ] ** 駄菓子のオススメ **
 なんといっても、表題曲の「Shat Iskandaria」(アレキサンドリアの浜辺)が大傑作。前奏が鳴りはじめると、思わず体がうねりだし、踊りだしたくなるようなメロディー。そこに、低音でファイルーズの声がうなるように入ってくるところなどは絶品である。ひところは、アレキサンドリアに行くと、あちこちでこの曲がかかっていたそうである。いわば、ご当地ソングなのだ。だからエジプト(カイロ)方言で歌われている。
リアルプレイヤーがあれば、ここで聴ける。
 ちなみに、アレキサンドリアは、アラビア語では「イスカンダル」という。どこかのアニメで耳にしたことがある、という方もいるのではないだろうか。「イスカンダリーヤ」はその形容詞形。「Shat」は「Chat」とフランス語風の表記をされることもある。
 LPの発売は1987(88?)だが、1960年代につくられた曲を収録しなおしたらしい(未確認)。作曲はすべてラハーバーニー兄弟。作詞もほとんどが彼らの手になる。さまざまなタイプの曲が収められていて、アルバムの完成度も高い。左のジャケットはLPのもの。現在のCDのジャケットは、このページの上左にある。

maarifti feekジャケット

MAARIFTI FEEK [1983/87/89年]
[マアリフティー フィーカ]
 いまのところ、日本で唯一国内発売されたファイルーズのCD。オルターポップ社から「愛しきベイルート」という表題で1989年に発売された。
 内容は、1983年録音、87年発売の「MAARIFTI FEEK」(「彼について私が知っていること」といった意味か?)に、上の「SHAT ISKANDARIA」のアルバムから5曲を加えたもの。「MAARIFTI FEEK」に含まれている曲は、中途半端に西洋風で、しかも多分に実験的なところがあるので、それほどおもしろくない。モーツァルトの交響曲40番の編曲もあったりして……。
 しかし、なんといっても、「Shat Iskandaria」がボーナストラックとして含まれているので、中古レコード屋で安く売っていたら、ご購入をお勧めする。


chante philemon wehbeジャケット houmoum al hobのジャケット soiree avec Fairuzのジャケット


古今東西のアラブ音楽、湾岸音楽が何百曲と勝手にダウンロードして聴けるとんでもないサイト「Salmiya.net」--このサイトのこのページで、歌手の顔で選んで、聞きたい曲を選ぼう。表記がアラビア語だけど……。
ファイルーズの歌は このページから計数十曲がダウンロードできる。

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